環境汚染、行方不明、ブラック労働……。ブームの陰で本当はヤバイ豪華客船クルーズ旅行

2018.4.12(木)ハーバー・ビジネス・オンライン

観光業で成長が著しい業界として豪華客船によるクルージングがある。日本だけでも、2017年の訪日クルーズ旅客数は前年比27.2%増の253.3万人、クルーズ船の寄稿回数は前年比37.1%増の2765回と過去最高を記録している。2016年に世界でクルージングを利用した観光者は2400万人だという。


クルージング最大手3社は米国に本社を構える船会社であるが、乗組員は季節労働者のようなもので労働契約条件はその船が登録してある国籍の基準に従うことになっているそうだ。乗組員の契約は最高9カ月で、週労70時間、休暇はなく、家族と離れての生活で、しかも通勤があるわけではなく、同じ船内での寝泊まりとなる。乗客の目には見えない乗組員のこのような厳しい勤務事情がある。


更に、環境保護という面において、3千人の乗客が1週間乗船している客船の場合の人的廃棄物は7万5千リットル、浴室トイレそして食器洗浄に使用する水量は37万リットル。加えて、洗濯などに使用される水も必要である。それに廃棄されるゴミの処理も必要となっている。これらの汚水そして汚物は海に捨てられるわけである。地球の環境保全という面において客船は必ずしも綺麗な観光業ではないのである。


(中略)また、日本でも寄港地周辺における万引きやポイ捨てなどの迷惑行為が目立つため、商店街の中には「クルーズ船客お断り」の張り紙を掲示する店もあるという。


(中略)さらなる問題もある。それはなんと、「乗客が消息不明になる」問題である。クルージング犠牲者協会によると、2000年から現在まで200人が乗船したあと行方不明になっているという。大型客船はあたかも海上に浮かぶ小さな町といった感じだが、しかもそこには警察はいない(厳密に言えば船長などは警察と同様の権限を持つが)。乗船した後、酔っ払って海に落ちたり、殺害されたり、盗難やセクハラに合ったりで、乗客の安全という面においては些か問題ありなのである。




 

 今月25日、クルーズに特化したオンライン旅行予約サイト「ベストワンクルーズ」を運営するベストワンドットコムが、東証マザーズに新規上場する。同社の代表取締役はエイチ・アイ・エス代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏の長男秀太氏だ。広告施策の効率化や為替差益も手伝い、2017年度7月期の連結決算は、売上高前年比27.6%増の11億9,659万円・営業利益同324.5%増・経常利益同815.8%増、そして当期純利益は同594.7%増の3,465万円だった。販売黎明期、金銭的に余裕のある「シニア」をターゲットと定めて、高齢者層に魅力的なイメージを植え付けてきた日本のクルーズマーケットだが、ベスト社は、オンライン予約の利便性向上に努め現役世代のニーズを取り込むとともに、ハネムーンクルーズ専用サイトの立ち上げに注力するなど若年層へのアピールも怠らない。情報過多をうかがわせる賑やかなサイトではあるものの、検索性は優れており、なるほど大手と比べると価格競争力もある。



 こうした日本人旅客を対象にした話題もさることながら、訪日外客受け入れに関するクルーズ関連のニュースはほぼ毎日のように報じられている。港湾整備、沖縄が目指す「東洋のカリブ構想」、そして五輪の宿泊客受け入れ用のクルーズ船ホテルなど……。



 活況を呈しているように捉えられるなか、このほど、負の側面に注目する記事がリリースされ、冒頭に引用した。あまり界隈ではネガティブな話題に接する機会はないが、振り返れば、先月半ばにアメリカのクルーズ会社「ノルウェージャン・クルーズライン」が運行した大型客船で、出向直後に「実は改修工事中」と告げられた乗客が激怒し、航海を終える4日前のタイミングで「被害者の会」をFacebook上に結成し、千名超がそのグループに参加するという異常事態があった。ドックへ入れる間もないほど、需要に対応せざるを得なかったということなのだろうか。2012年には、イタリアの「コスタ・クルーズ」所有客船で、船長がコンピューターの設定を解除し、乗員の出身であるイタリアのジリオ島に近づき過ぎたことにより浅瀬で座礁し、浸水・転覆した海難事故があった。愛人を無料で船に乗せていたことに加え、乗客を置き去りにして船から逃げ出していたことは大きな話題となった。船長が船を放棄する事態といえば、その2年後に発生した韓国の貨客船セウォル号沈没事故も連想される。



 

 移動のための手段ではなく、クルージング自体が目的と位置付けられて久しい。非日常の世界を堪能できる船内は「豪華」に彩られていても(日本だけなぜか大型クルーズ船には必ずついてまわる語句)、様々な「問題」が背後に見え隠れしており、その姿には「虚構感」が漂う。船内で体験できるアクティビティやイベントは別に船外でもできる。外国人との交流だって船に乗らずしても可能だ。目が覚めると目的地に連れて行ってくれて、その時に手ぶらで荷造り不要という点や海上から堪能できる絶景以外は、積極的に利点といえる要素は乏しい。新造船が相次いで就航し、市場は活性化しているのには違いないが、そこに文化はない。横目から見ると、好況を喜んでばかりいてよいものか疑いたくもなる。内容ではなく、虚構の見た目が全てになってしまう危うさを感じる。

サービス連合情報総研

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